シリーズ連載「技術統合で切り拓くFLOSFIAの挑戦」導入回~「難しさ」こそが未来を拓く~

私たちFLOSFIAは、世界に先駆けて次世代パワー半導体「α型酸化ガリウム(α-Ga₂O₃)」の事業化に取り組んでいます。パワー半導体は、電気自動車や再生可能エネルギー、スマートグリッドなど、脱炭素社会の実現を支える重要なテクノロジーです※1。その中でも、α-Ga₂O₃は、従来のシリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)を圧倒する高い絶縁破壊電界を持ち、超低損失で高効率な未来を現実に引き寄せるポテンシャルを秘めています。

しかし、パワー半導体の世界は、革新的な材料の発明だけでは成功しません。製品化までの道のりは、極めて複雑で、幾重にも重なる専門技術と知見を統合する必要があります。

「統合」の難しさ

材料開発、成膜プロセス、ウェハ製造、デバイス設計・シミュレーション、微細加工、信頼性評価、実装・モジュール化、そして最終的なアプリケーションへの組み込み…。これら一つひとつが高度な専門技術を要するだけでなく、知財戦略、法務、マーケティング、資金調達、パートナーシップ戦略など、ビジネス面でも幅広い領域を横断した統合力が求められます。

特に「α-Ga₂O₃」という新材料の高品質な単結晶薄膜を実現すること自体が、非常に困難な挑戦でした。私たちはこの課題を独自技術である「ミストドライ®法※2」により突破してきました。さらにその材料を実用デバイス(SBD、JBS、MOSFET)へ最適化し、世界初のP型層も開発しました。しかし量産化に向けては、ウェハ製造、信頼性評価など、多くの技術的課題が次々と立ちはだかってきました。FLOSFIAが直面してきたこれらの課題は、世界でも他に類を見ないほどの高度な統合を要求するものでした。

事業化を支える戦略的統合とパートナーシップ

さらに重要なのは、技術開発だけではなく、「事業化」に向けた経営戦略やパートナーシップの構築です。私たちは、材料とデバイス設計に注力し、製造や量産体制をパートナー企業と連携する「セミファブレス」モデルを選択。しかしながら、ここでも課題に直面し、初期量産まではマザー工場で進めるという判断に至り、一からの工場立ち上げ、量産開発を含む技術統合を進展させる体制構築に成功してきました。そして800件以上の特許出願、約400件の特許権利化に成功した強力な知財戦略を基盤に、多くの大手企業との連携を進め、本格量産への道筋を着実に進めています。

また、私たちの最終ゴールは「デバイス単体」ではありません。「モジュール化」を含め、お客様の求めるシステムに実装され、社会で実際に役立つ形にすることです。高性能で超小型、低インダクタンスのモジュール技術や、設計自由度の高い「パワーモジュールプラットフォーム」の開発にも積極的に取り組んでいます。

着実に、一歩ずつ未来へ

「難しい」からこそ、価値がある――。私たちはこの信念を胸に、「半導体エコロジー®」を通じた地球規模の課題解決に向けて、着実に成果を積み重ねています。

次回の第1回では、「材料開発」の核心に迫り、新材料「α型酸化ガリウム」の持つ可能性と、実用化のための技術統合について詳しくお伝えします。どうぞご期待ください。

 

連載シリーズ《技術統合で切り拓くFLOSFIAの挑戦》
 導入回:「難しさ」こそが未来を拓く
 第1回:材料編|革新の源泉「α-Ga₂O₃」のポテンシャルを引き出す技術統合
 第2回:デバイス編|新材料を「使える半導体デバイス」へと昇華するブレークスルー
 第3回:製品化編|量産と信頼性の壁を越える、製造プロセスの最前線
 第4回:モジュール・システム編|顧客ニーズを形にする、パワーモジュール技術の進化
 第5回:事業戦略編|知財とパートナーシップで築く競争優位の仕組み
 最終回:組織編|多様な知が交わる組織づくり〜人が生み出す統合の力〜


FLOSFIAが挑むリアルな軌跡と熱意を、皆さまと共有できることを心から楽しみにしています。
※1 FLOSFIAのSDGsに向けた挑戦については、こちら
※2 ミストドライ®法については、こちら