材料が変わると、勢力図も変わる──Si ▶ SiC ▶ GaN ▶ Ga₂O₃ の系譜(シリーズ第1回)

パワー半導体の歴史は、「素材の交代劇」の歴史でもあります。素材が変わるたびに、要求される性能・製造技術・市場勢力図が一新され、サプライチェーン全体に新たな波紋が広がってきました。本稿では過去70年の主役交代を振り返りつつ、次の主役候補として注目されるGa₂O₃(酸化ガリウム)、そしてその中でもFLOSFIAが挑戦している「α型(コランダム構造)」の可能性についても触れます。

Si――最強の量産材料から、限界を意識する時代へ

1950年代から2010年代前半まで、シリコン(Si)はパワー半導体の圧倒的な主役でした。Siは、材料コスト・加工性・信頼性の全てでバランスが取れており、「これぞ産業界の基盤」と言える存在です。特にIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)の登場は、Siパワーデバイスの枠を大きく広げ、鉄道・産業機器・再生可能エネルギーといった幅広い分野における高効率化をもたらしました。
しかし、EVや再エネの拡大とともに、Siでは超えられない「耐圧」「損失」「温度」の壁が徐々に顕在化。ここから、産業界全体が“新たな材料”を模索し始めることとなります。

▶ Siの成熟が示した教訓 限界が見えたとき、“本当に違う何か”の競争がはじまった


 

SiC――競争激化と、次の時代を見据えた挑戦

2010年代後半以降、SiC(シリコンカーバイド)がパワー半導体の世界に革命をもたらしました。SiCは高耐圧・高温動作・低損失を実現し、EVや再生可能エネルギーの分野で一気に主役に躍り出ます。その結果、市場では大手メーカーから新興勢力まで激しい競争が繰り広げられ、量産化・コスト低減・大規模投資のフェーズに突入しました。

一方で、この熾烈な競争と投資の加速によって、「材料の優位性は一時的でしかなく、やがて“量産コスト”と“生産キャパシティ”の戦いになる」ことが明らかになりつつあります。そして、そうした状況を先読みする形で、その先を見据えた新材料開発が、FLOSFIAのようなスタートアップによって同時並行で進められているのです。

▶ SiCフェーズの示唆 材料の”隙”を狙って、“次の材料”を狙う挑戦が生まれる

 

GaN――「高速・小型化」ニーズの拡張

GaN(窒化ガリウム)は、高周波・高速スイッチング分野で独自の成長を遂げています。USB-C急速充電器やデータセンター用電源など、小型・高効率化を追求する分野ではすでに実用化が進行。今後はさらに新しい用途の広がりが期待されます。ただし現状、主戦場は650–900V帯に限られており、EVなど大電力・高耐圧用途ではまだSiCが中心です。

▶ GaN進展の示唆 “次の材料”を狙う挑戦から、素材が“棲み分ける”時代へ
(材料ごとの特徴が大きく異なり、何かが完勝しない)

 

Ga₂O₃――“性能×低コスト”で主役を狙う、FLOSFIAのα型Ga₂O₃の挑戦

次世代の主役として期待が高まるのがGa₂O₃(酸化ガリウム)です。Ga₂O₃は、理論的な臨界電界強度がSiCの約2倍、原料コストも大幅に低減できる可能性を持っています。既存のSi/SiC製造設備を一部活用できる点も大きな魅力です。

ここでFLOSFIAが挑戦しているのが、α型(コランダム構造)Ga₂O₃です。
多くの企業・研究機関が取り組むβ型(モナク型)と比べ、α型は「高い結晶性」「Si基板との親和性」「量産性」に優れ、デバイスの性能向上とコスト低減の両立が期待できます。FLOSFIAは、日本発のスタートアップとして、α型Ga₂O₃を“次の主役”へ押し上げることに挑み続けています。

α型Ga₂O₃という「本当に違うもの」を、世界の新しい標準に――これが私たちFLOSFIAの使命です。

素材交代は産業交代──FLOSFIAが握る次のカード

Si、SiC、GaN、そしてGa₂O₃へ。主導権は時代ごとに移り変わりますが、
その変化の最前線で「限界に挑戦する」ことこそ、FLOSFIAの存在意義だと考えています。
日本の技術、産業、ネットワークを結集し、α型Ga₂O₃による“性能×コスト”そして、”半導体エコロジー®“のブレークスルーを世界へ発信していきます。

次回予告

次回「SiCショック──加速する投資と業界の再編」では、SiC投資ラッシュの現実とそれが示す“素材交代の兆し”を、最新のデータも交え深掘りします。ぜひご期待ください。