株式会社FLOSFIA(本社:京都市、代表取締役社長:四戸孝)は、酸化ガリウム(α-Ga₂O₃)を用いた次世代パワー半導体開発において、最大の課題とされてきた「p層」(導電型p型半導体層)の改良に成功し(図1)、世界で初めてMOSFET(電界効果トランジスタ)でのノーマリーオフ特性を有する10A超の大電流動作(ドレイン電流14.3A、ゲート電圧15V時)を実現しました(図2)。
FLOSFIAはこれまで、独自の「ミストドライ®」法により、酸化ガリウム半導体におけるp層形成技術を先駆的に開発し、JBS(ジャンクションバリアショットキー)構造ダイオードにおいて製品レベルのサンプル実証をすでに達成しています。そして今回、さらに技術難易度が高いMOSFETへのp層適用を目指し、独自技術を高度に改良したうえで新規MOS構造形成プロセスを開発し、デバイスへの組み込みに成功しました。これにより、ノーマリーオフ動作や大電流特性といったMOSFETにおける重要機能を、酸化ガリウム半導体として世界で初めて達成しました。今後、本成果を基盤に耐圧構造の導入、高耐圧化および製品化に向けた信頼性確保等の研究開発を一層加速してまいります。なお、本研究成果は、防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」(JPJ004596)の支援を受けて得られたものです。
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【p層を用いるFLOSFIAのアプローチの優位性について(他の研究例との違い)】
酸化ガリウム半導体のMOSFET構造を作製するうえで、「p層」は材料としての高い性能ポテンシャルを引き出すために本質的に重要な役割を持っています。その一方で、他機関が報告するアプローチの多くは、現状の技術難易度からp層を採用せず、デバイス構造をシンプル化した方法を用いています。しかしながら、「本来の酸化ガリウム材料の高い性能(高耐圧・低損失)を引き出し、実用的な量産デバイスを製造するためには、p層を活用したデバイス構造が有効である」というのがFLOSFIAの見解です。FLOSFIAでは、独自開発のp層形成技術の進展により、デバイスの構造の自由度や性能向上の余地を広げることに成功しました。詳しくは以下【本研究成果】をご覧ください。
今回のノーマリーオフ動作および大電流動作の実証が、このアプローチの有効性を明確に裏付ける形となっています。引き続き、p層技術を高度化して量産に対応した革新的なパワーデバイスを提案し、この分野でグローバルな競争力を発揮してまいります。
(これまでのp層実用化に向けたFLOSFIAの技術進展)
・2023年1月:新規p層のデバイス適用に成功し、ジャンクションバリア効果を確認
・2023年3月:JSRとの共同研究により、量産適用を前提としたp層成膜技術開発に成功
・2024年12月:p層を用いたJBS構造ダイオードで、10A級の大電流サンプル作製に成功
・2025年6月(本成果):さらに改良したp層をMOSFETに適用、世界初となる10A超の大電流動作を実証
【本研究成果】
FLOSFIA独自のミストドライ®法で作製した高品質なα-Ga₂O₃を用いて耐圧600V級デバイスのエピタキシャル層を形成し、微細化・低オン抵抗化に有利なトレンチゲート型MOSFETを作製しました(図3)。MOSFETのオン抵抗の大きな部分を占めるチャネル領域の抵抗を低減するために、p層を活用した新規開発のMOS構造形成プロセスを適用しています。p層は高速スイッチング時のアバランシェ破壊耐量を上げるためにも有効です。さらに、約10µmに超薄膜化したα-Ga₂O₃ MOSFETを金属支持基板に転写することで、高い通電能力とSiC並みの高放熱特性を持つ縦型素子構造を実現しました。その結果、ゲート電圧15Vにおいて、ドレイン電流14.3Aの通電に成功しました。ゲート電圧0Vではドレイン電流が流れないノーマリーオフ特性を実現しています。通電エリアの特性オン抵抗は17mΩ・cm2であり、今後のMOS構造形成プロセスのさらなる改良とトレンチゲート構造の微細化により、SiC-MOSFETを凌駕する低損失性能を追求していきます。
【今後の展開】
(激動する市場環境への対応)
世界的な電動化や省エネ化の加速により、パワー半導体市場は大きな転換期を迎えています。従来の技術や産業構造の延長ではもはや競争力の維持が困難となり、グローバル企業の再編や新興勢力の台頭など、市場構造も大きく変化しています。FLOSFIAは、酸化ガリウムおよび独自のp層技術を強みに、新たな市場ニーズに柔軟かつ迅速に対応し、日本発の技術競争力を世界に発信してまいります。
(低コスト化と社会的価値の創出)
GaO®ブランドを支えるFLOSFIA独自の半導体技術は、サファイア基板の活用によりSiC比で最大50分の1まで基板コストを低減可能です。さらに、既存LED量産設備の転用や自社開発の薄膜デバイス転写技術との組み合わせにより、パワーデバイスの高品質かつ低コストな量産体制を実現します。今後は自動車、産業機器、データセンター、通信インフラ、再エネ・蓄電システムなど多様な分野で、高効率化・省エネルギー化・CO₂削減といった社会的価値創出に貢献してまいります。
(成長戦略と今後のロードマップ)
2008年の京都大学におけるコランダム型酸化ガリウム(α-Ga₂O₃)薄膜開発の成功以来、FLOSFIAは数々の世界初実証を達成してきました。現在は、京都大学近郊のマザー工場にて月産100万個規模の量産技術基盤の整備を推進しており、2026年度以降の本格量産開始を計画しています。今後も日本発のイノベーションによるグローバルリーディングカンパニーを目指し、持続的な成長と技術革新を実現してまいります。
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社FLOSFIA パワーデバイス事業本部(担当:中澤)
Email:info(アット)flosfia.com
※「GaO®」・「ミストドライ®」・「半導体エコロジー®」はFLOSFIAの登録商標です。