第5回(最終回):大企業にどう頼り、何を守ったか──「頼る」と「守る」の境界線

こんにちは。FLOSFIA取締役会長の人羅俊実です。
この連載では、私たちFLOSFIAがGa₂O₃という未踏の素材でパワー半導体事業を立ち上げていく中で直面した課題と、その突破の軌跡を現場目線でお伝えしています。
前回は、技術開発における“壁”と“突破口”についてご紹介しました。

今回は、ディープテックスタートアップにとって避けて通れない「パートナーシップ」についてお話しします。
資金も実績もない立ち上げ期、どうやって大企業と連携し、どこに気をつけてきたのか──
私たちが大切にしてきたスタンスと、そこから得た学びを振り返ります。


大企業と組む意味、組まなければ進まない理由

FLOSFIAが挑戦しているGa₂O₃の事業化は、単なる材料開発ではありません。
それを搭載した製品が社会に出て初めて、インパクトが生まれます。

しかし、パワー半導体はエンド製品の中に「組み込まれる部品」であり、製品単体では市場に届きません。
だからこそ、大企業との連携が“社会実装”の要になるのです。

・用途の開拓
・システム設計との適合検証
・製品評価と信頼性確保

これらは、スタートアップ単体では到底カバーできません。
「組むしかない」でも、「守るべきものもある」──この二律背反にどう向き合うかが重要でした。


“甘える”と“警戒する”のバランス感覚

FLOSFIAが大切にしてきたのは、「頭がおかしいと思われても、言うべきことは言う」という姿勢です。

・開示する情報の範囲とタイミング
・共同発明の知財帰属
・契約交渉での落としどころ

これらを“なあなあ”にすると、後で必ず大きな問題になります。

実際の提携交渉では、ある意味で「かっこ悪い交渉」もしました。
「一方的に守られる契約は締結できません」と言ったこともあります。

でも、それでも信頼して組んでくださった企業がいました。
信頼とは、正直さと交渉の筋の通し方に宿ると感じた瞬間でした。


製薬モデルに学ぶ「外と組んで、キャッシュを回す」仕組み

FLOSFIAでは、パートナーシップ戦略において製薬ビジネスの仕組みにヒントを得ました。

製薬業界では、
・早期ライセンスアウトで研究費を得る
・マイルストーンでリスクを分担する
・販売ロイヤリティで成果を共有する

こうしたモデルが当たり前に使われています。

FLOSFIAも、開発初期段階から大企業と連携し、共同開発費を得ながら進めるモデルを構築してきました。
これは、技術を売るのではなく、開発力と実装力をパートナーとともに磨いていくという考え方です。


提携先は「目的のための相手」であり、「名前のためではない」

私たちは、ブランドとして大企業と組んできたのではありません。

・モジュール開発で連携したブラザー工業
・モータ制御や実装で組んだ安川電機
・大口径化や量産プロセスで協業した三菱重工業デンソー
・材料・プロセス開発で連携したJSR

それぞれに目的があり、それぞれに適した組み方がありました。

重要なのは、「自分たちのどこを活かしたいか」を明確にすること
相手の期待に“寄せる”のではなく、自分たちの立ち位置を定義した上で組むことで、健全な協業が生まれます。


「パートナーと組む」もまた、“現場”である

提携交渉の場は、交渉だけの場ではありません。
そこには、技術の可能性を伝えるプレゼンがあり、
製品の未来を描く構想力があり、
相手の技術者との議論を通じて見えてくる課題もあります。

つまり、パートナーシップもまた“全現場”のひとつです。

私たちは、外に出ることで自分たちの技術の輪郭が明確になり、
交渉を通じてFLOSFIAの“芯”が強くなっていったと感じています。

(文:FLOSFIA 取締役会長 人羅俊実)