こんにちは。FLOSFIA取締役会長の人羅俊実です。
この連載では、FLOSFIAがどのようにゼロからGa₂O₃事業を立ち上げ、ディープテックの難所を一歩ずつ越えてきたかを振り返っています。
前回は、「特許ゼロ」から始まった知財戦略についてご紹介しました。
今回は、資金調達の“現場”で何が起きていたのか──
VCからの率直なフィードバックと、それにどう応えていったかをお話しします。
「お客さんを連れてきてください」──最初のVCで言われたこと
事業化の方向性がGa₂O₃に定まり、必要になったのは当然ながら開発資金でした。
私たちは早速、京都大学にも近いベンチャーキャピタルにプレゼンを行いました。
ですが、そのときに返ってきたのは、
「お客さん(引き合い)を連れてきてから来てください」というシンプルなひと言。
つまり、市場ニーズが明確に確認できていないと投資はできないということです。
その時点では製品どころか材料サンプルも初期段階。明確な見込み客など、当然いない状態でした。
このとき初めて、私たちは資金調達もまた「現場」であることを思い知らされました。
UTECとの出会い──鋭く、だが共創的なフィードバック
そこで、投資ステージを少し下げ、シード期のディープテック投資に強いVCを探し始めました。
その中で出会ったのが、UTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)です。
UTECのパートナー陣は、Ga₂O₃という素材のポテンシャルに強い関心を持ちつつ、冷静かつ建設的なフィードバックをくれました。
特に指摘されたのは次の3点です:
・特許がない:Ga₂O₃関連の独自知財が未整備
・量産性のデータがない:10mm角の試作しかなく、スケールアップの実証が不足
・ベンチマーク指標が不明確:性能やコストの比較対象となる数値が出ていない
この3つは、まさにディープテック領域での事業化において「投資判断に不可欠な三大要素」とも言えるものでした。
証明できることは、すべて証明する
このフィードバックに対し、私たちは腹をくくりました。
「分からないと言われたなら、分かるようにしよう」。
自分たちの力で、証明できるものはすべて証明する。
その姿勢こそが、FLOSFIAの“現場力”──いや、「全現場主義」の真骨頂でした。
・特許:自分たちで明細書を書き、出願
・量産性:自作装置でGa₂O₃のスケーラビリティ(4インチ化)を簡易実証
・指標:材料の性能比較チャートだけでなくデバイスレベルでのターゲット指標やターゲットコストを設定
資金調達は、単なる「説明」の場ではありません。
私たちにとっては、VCとの対話もまた“実験室”であり、“現場”だったのです。
UTECからの出資決定、そして開発拠点の誕生
2013年2月、UTECからのシード投資が正式に決定しました。
この資金により、ようやく私たちはGa₂O₃の研究開発に本腰を入れる環境を整えることができました。
それまでは金子のワンルームマンションが“研究所兼オフィス”だった私たちも、2013年4月には京都大学桂キャンパス内のベンチャープラザにオフィスを開設。
ついに、「開発現場」が物理的にも誕生したのです。
資金調達とは、共創の始まりである
振り返って思うのは、資金調達とはプレゼンのうまさを競う場ではなかったということです。
VCは敵ではなく、むしろまだ形になっていない事業を共につくる「仲間候補」。
その仲間が「何が不安か」「どこが足りないか」を見つけてくれたなら、それは単なる否定ではなく、共創の始まりだったのだと思います。
私たちは、「引き合いがないからダメ」では終わりませんでした。
「特許がない」「データがない」「指標がない」と言われたなら、それを一つずつ現場で“見える化”していったのです。
次回予告
次回は、いよいよ技術開発の現場に迫ります。
「できるわけがない」と言われたGa₂O₃の電気伝導性向上、P型層形成、熱伝導率──次々と現れた技術の壁に、どう立ち向かったのか。
誰かが作った答えではなく、“自分たちでつくった答え”の積み重ねについて、お伝えします。
(文:FLOSFIA 取締役会長 人羅俊実)