「絶縁破壊電界」と低損失のヒミツ

こんにちは、FLOSFIAの人羅です。

前回ご紹介した「絶縁破壊電界」は、パワー半導体の“タフさ”――つまり高い耐圧性能を左右する、とても重要な要素です。ただ、この仕組みは少しややこしいので、今回はできるだけイメージしやすくご説明したいと思います。

パワー半導体は、「大きな電圧に耐えられる=高耐圧」ほど用途が広がります。ここでポイントになるのが絶縁破壊電界です。これは、同じ厚みの層を比べたとき、「この材料はどれだけ大きな電圧に耐えられるか?」を決める限界値です。

耐圧を上げるやり方は主に2つあります。

まずひとつは、半導体層を厚くすること。分厚い壁にすれば壊れにくいので、より高い電圧に耐えられます。ただし、壁が厚くなるぶん、今度は電流が流れる時に“道”が長くなり、通りにくくなってしまう。これが「オン抵抗」――電気の流れやすさが落ちる理由です。電圧に強くなっても、効率は下がってしまうのです。

ここで、「電圧に強いほうがいいの?それとも電気が流れやすいほうが大事?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

実はパワー半導体は、用途によって「高い電圧に耐えなければならない瞬間」と「一気に電流を流したい瞬間」を使い分けています。ですから、「高耐圧」と「低オン抵抗」――どちらも高いレベルで満たすことで、初めて低損失とすることができるんです。

もうひとつの方法が、素材自体の「絶縁破壊電界」を高めること。酸化ガリウム(Ga₂O₃)のような“もともとタフな”素材なら、半導体層の厚みを抑えても十分な耐圧を確保できます。その結果、電流もスムーズに流しやすく、「高耐圧」と「低オン抵抗」の理想的なパワーデバイスが実現しやすくなるのです。

これまで、FLOSFIAの開発チームは多くの試行錯誤を繰り広げ、世界最高データを記録してきました。

次回のブログでは、この“バランスの秘密”をさらに掘り下げていきます。細かい話をすると、材料の良さだけでは本当に優れた特性は生まれにくい面もあるですが、酸化ガリウムは、先行する他の新材料パワー半導体と比べても、驚くほど早く実用レベルのデータが揃い、今や次世代の本命候補にまで成長しています。なぜそれが実現できたのか――その理由も詳しくご紹介していきますので、ぜひご期待ください!

【マニア向け補足】 ちなみに、本題から離れますが、「オン抵抗」と「特性オン抵抗」の違いについても少しだけ補足します。 一般的に「オン抵抗」とは、パワー半導体がスイッチONになったときに、電流が流れる際に生じる抵抗値です。ただし、デバイスの大きさや形状によってこの値は変化し、単純には比較できません。これに対し、「特性オン抵抗」は“単位面積あたり”のオン抵抗を示す指標です。つまり、チップの広さで割って「1cm²あたりどれだけ抵抗があるか?」という数字で材料や技術を公平に比較できるようにしたものです。小さいほど、多くの電流をロス少なく流せる優れた半導体と評価されます。